【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
誰も振り返ってなんかくれかなった不必要でちっぽけな自分。
そんなあたしを抱きくるんで『生きよう』と言ってくれた柔らかな光。
初めて、あたしを必要としてくれたのは陽だまりの狼。
そう、あたしには、この人がーーー待っていてくれたの。
だからこそ……貴女に逢おうと思った。
「姫君」
顔を上げて、真剣な顔をしてあたしの話に耳を傾ける姫君を見た。
「はい……」
控えめにされた返事に笑顔を向けた。
あたしの視線はそのまま…まだふくらみの目立たない彼女のお腹に吸い寄せられる。
そこには、彼女の愛する人との新しい命が宿っていた。
目の当たりにするとやっぱりほんの少しだけ、あたしの胸はしくりと痛む。
人間、どれだけ手を伸ばしても届かないものへの羨望は、きっと消し去ることなんて中々出来る事じゃないということね。
ほんの僅か切ない気持ちを味わいながら、あたしはついにこの言葉を口にする。
「あたくしは実の母に見放され、継母に虐待をされ、子供も生めない女なのよ。姫君」
「!!!」
どうかお願い
目をそらさず、すべてを聞いて。
貴女とあたしの間にきっと必要な事だから。