【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~




誰も振り返ってなんかくれかなった不必要でちっぽけな自分。



そんなあたしを抱きくるんで『生きよう』と言ってくれた柔らかな光。



初めて、あたしを必要としてくれたのは陽だまりの狼。



そう、あたしには、この人がーーー待っていてくれたの。



だからこそ……貴女に逢おうと思った。



「姫君」



顔を上げて、真剣な顔をしてあたしの話に耳を傾ける姫君を見た。



「はい……」



控えめにされた返事に笑顔を向けた。



あたしの視線はそのまま…まだふくらみの目立たない彼女のお腹に吸い寄せられる。



そこには、彼女の愛する人との新しい命が宿っていた。



目の当たりにするとやっぱりほんの少しだけ、あたしの胸はしくりと痛む。



人間、どれだけ手を伸ばしても届かないものへの羨望は、きっと消し去ることなんて中々出来る事じゃないということね。



ほんの僅か切ない気持ちを味わいながら、あたしはついにこの言葉を口にする。





「あたくしは実の母に見放され、継母に虐待をされ、子供も生めない女なのよ。姫君」



「!!!」








どうかお願い



目をそらさず、すべてを聞いて。



貴女とあたしの間にきっと必要な事だから。








< 112 / 121 >

この作品をシェア

pagetop