【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
目を見開き戸惑った顔の姫君に思わず苦笑をもらす。
今日は何度そんな顔をさせてしまっただろう。
でもどうか、もう少しだけ勘弁して欲しい。
「少しも辛くなかったなんて嘘は言わない。辛くて、死ぬことばかりを救いだと思っていたわ。あたくしと真逆の貴女を……妬ましくだって感じてる」
つらつらと思いの丈を吐露していく。
彼女がどんな表情をしていようとも、嘘もへつらいも必要ない。
「……でも、もう、あたくしは貴女に逢えると思った」
「あたしに…?」
問う姫君に一つ頷く。ずっと怖かった。彼女に逢った自分が内に醜さを持つ者だと改めて思い知りやしないかと。
だけど、いつしか、気がついた。
「何も無かった。あたしには、何も。
でもーーー今は違う。
あたくしには、橙伽様がいたの」
あたしの辛さも弱さも、醜さすら、橙伽様は全て知り、受け入れてくれていた。
きっと、あたしの知らない初めから。
あたしの全てはあの人だ。
これ程の幸福に気がつけば
ーーーー他に何を望もうか。
「貴女には、全て包み隠さず言うわ。
あたくしの過去も、貴女を女として少し妬ましいこの醜い気持ちも。
だからーーー貴女も貴女の心の中を見せて欲しいのよ」
「え……?」
後は、あの人の為にあたしがすべき事をする。