【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
「あたしの、心…って……」
大きな瞳が所在なさげに揺らめく。
怯えたようなその顔に彼女の心に隠れた本心があることを確信させた。
それはあたしが感じたことときっと同じだと思うのだけど。
…さぁ、目的を果たさなければ。
ちらりと横目で舐めるような視線をわざとつくる。
「貴女は、若様の花嫁ですわよね?」
「!…は、はいっ」
背筋を伸ばし慌てたさまで返事をしたその姿は咎められた生徒のようだ。
「真神の家柄は特殊です。ただの名家と言うだけではない。…人狼であるという普通の人間には理解し難い姿もある。
若様はそんな一族の頂点に立つ方。…貴女は、そんな方の花嫁よね?」
「はい……」
彼女の返事は不安に震える小さなものだった。
あたしはそんな彼女を黙って見つめる。
俯いていた彼女は、膝に置いていた手をグッと握り締めーーー勢いよく顔を上げた。