【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~




あたしに向かって上がった顔は必死の形相。



「頑張ります……あたしっ、十夜に全然相応しくないですけどっ、必死で頑張りますから……!!だから……」



すがりつくかのような震える悲痛な声に胸が
痛んだ。



「若様は一族の頂点に立つべく幼い頃より教育を受けてきた。若くして父親になる事にも、姫君よりも構え方が違うでしょう」



「…っ」



淡々と姫君に現実を突きつけるあたしの言葉はまるで刃のよう。



けれどこれは必要なことなのよ。



「姫君の覚悟は素晴らしく立派なことですわ。けれど、貴女が一人で頑張るのは無理です」



はっきりと言い放つあたしの言葉に、姫君はぎゅっと唇を噛んだ。頭のいい子だ。だからこそ言い返すことも出来ない程に理解しているのだろう。



「若様には幼い頃より積み重ねてきたスキルがある。姫君は今までご両親に守られてきた…きっとごく普通の女の子…。自分がいきなり母親になることも、大変な所に立つ夫を支えて行くことも……不安でない訳がないわ」



…一人での必死な頑張りはいずれ彼女を追い詰める。



「怖くない筈がないわ。それを貴女が恥じることも、ないの」



「…!」



姫君の顔がハッとあがり、微笑むあたしを見つめた。



「忙しい若様にすがることも出来ず、頼りたくてたまらないでしょう母君も今は遠くて……一人不安でしょうがないこと、あたくし、わかってよ?」



ほら、正直にお言いなさいな。



「あたくしは、貴女に全てさらけ出しましたわよ」



「……ッ」



彼女の唇が震えた。



弱い引き攣るような笑顔を一瞬浮かべたかと思ったら……



後は堰を切るように溢れ出した。








「怖い…です…。怖いです…っ、怖いです…!すごくっ、怖いです……!!あたしはっ…何にも知らなくて…!十夜がすごく、遠くって……!!」



「…当たり前ですよ。だから、あたくしが居るんです」



「!」



しゃくり上げながら涙を流す女の子にあたしは満足気に笑った。




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