【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
泣き濡れた頬に手を伸ばして、いたわる様にそっと涙を拭う。
驚いたままの姫君に、袂に入れていたハンカチを差し出した。彼女はそれを反射的に受け取った。
ハッとすると律儀に「ありがとうございます」と言い、少し迷った様子を見せた後ハンカチを目尻に当てた。
落ち着き始めた姫君を見てホッと胸をなでおろした。
「若様だって一人で何でも出来たわけではないのよ。あれはあたくしの夫のサポートの賜物でしょう?」
得意気な顔をつくってふふんと笑ったあたしを見て、キョトンとしていた姫君の顔がふわりと開く花のように柔らかくほころんだ。
「十夜は努力だって人一倍するんですから」
「!」
にやっと笑った姫君に思わず面食らってしまった。
負けないと言外に言っているその表情を見て、あたしもすぐに同じ様に笑った。
互いに狼の花嫁
ーーーー夫は自分の誇り
「きっと姫君も若様に負けないのでしょう?」
固く決意した強い瞳に語りかける。
「手加減なんてしなくてよ」
挑発的に。
「あたし、もう惨めに泣いたりしません。十夜の為に子供の為に…あたしの為に誇れる自分になりたい…!
何でもします。教えてください!!」
ぶつかってきたのは強い強い眼差し。
花嫁は、皆、間違いなく気高い。…誇れる存在が傍らに立っているから。
「あたくしの出来る全てを貴女にお教え致します」