【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
座った状態ではきちんとした礼をとれなかったけれど、それでも出来る範囲でこうべを垂れた。
「こ、こちらこそっ、お願いいたしますっ!!」
それに驚いたのか姫君が慌ててがばっと深く腰を折る。
そのバタバタとした様子にまずは礼儀作法から始めようかしらと苦笑が漏れた。
まだ若い彼女に教える事は山ほどあるでしょうね。…考えると何だか楽しく感じた。
そしてふと思う。
橙伽様はどんなことを思いながらあたしをしつけたのかしら?
思えば随分虐められたこと。その時のあの方の恍惚とした表情は悔し泣きをしながら夢に見るほどだったわね。
他の花嫁が蝶よ花よと甘やかされるなか、あたしは…とやさぐれた。
今思えばありがたいと思えるけれどーーー
「………!」
そこまで考えて、あたしはハッと、気づく。
『悔し泣きとは見込みのある花嫁だ。泣こうが喚こうが止めやしないよ。ーーー君にとって必要な事に、僕は手を抜かない』
ねぇ、橙伽様、わかっていたの?
あたしを教育したのは、のちのあたしの道に必要な事だったと。
狭いあたしの世界が姫君と関わり新たな世界を築いていくと。
それは、
ーーーー貴方だけにしがみつく世界から少し外に出るように
人狼と花嫁だけでなく、新たに花嫁どうしの絆を創れるかしら?
真神は今、変わろうとしている。
人狼だけでなく花嫁も……この子がきっときっかけになる。
ーーその為に、あたしが育てる。
ねぇ、貴方は、いつからそんな未来を見ていたの?
(本当に、いつもいつも狡い狼)
貴方が創ってくれたこの光の道
これからは、あたしも貴方と共にずっと守って行く。
ただずっと、貴方の側で。