【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
おんなじ顔のはずなのに、なんだこの差は……。
走り去る後ろ姿を見送りながら、思わず遠い目になる俺。
それが特に羨ましいとは思わんが複雑っつーか、なんというか。
止めとけ止めとけ、こいつは美しい外見からは計り知れんほど内側真っ黒だぞ。
心の中で一人ごちるそんな俺の手の中に
「はい、紅」
「……!?」
ポンとピンク色の包みが乗った。
「なんだこりゃあ、てめぇが貰ったんじゃねーか!!」
渡された手作りクッキーを突き返しながら睨み付ける。
蒼は素知らぬ顔で平然と言ってのけた。
「俺は甘いものは食わんしいらん。なら、甘いもの好きな紅が食うのが一番だ」
「い る か !!!
つーか、それならいい顔して受け取るんじゃねぇ!」
どうせ気なんてあるわけがねぇのに!この腹黒!!
当然とでも言いたげな蒼に、俺はビシッ!と指を突きつけて怒鳴りつけた。
「………」
「な…なんだよ…っ?」
妙にすわった何か物言いたげな目に、ついつい及び腰になる。
蒼は不機嫌を隠すことなくチッと舌打ちをして
「余計なトラブルは避けて当然だ。面倒くせぇ。当たらず触らず、これが一番楽だからに決まってる」
「!!」
ほら、こいつ真っ黒じゃん……!
…でもまぁ実際、運命の花嫁以外に反応出来ない俺達がモテてもなんにもなりゃしないけど。
そんな事を考えていると、涼やかな目がキロリと俺を見る。
「それより、つまらねぇケンカはしてないだろうなぁ?」
「っっ!」
いきなりそんなことを言って怪しむ蒼から慌てて視線をそらす俺。
そしたら蒼は大袈裟にため息をついて俺に呆れた視線をよこした。
「な…なんだよっ!?」
堪えきれなくて冷や汗かきつつも蒼を睨んだ。
蒼はそんな俺をものともせず冷ややかに言い放つ。
「兄さん、俺達と普通の人間じゃあ力に差がありすぎる。そもそもおまえ、手加減出来ないだろうが?」
「……」
普段いいだけ呼び捨てのくせに、説教する時に限って《兄さん》呼ばわりは馬鹿にしてるとしか思えない…。
しかもその後はおまえ呼ばわりってなんだ。
しかしぐうの音も出ない俺は反論の言葉も中々出てきやしないのだ。