【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~




「でも、希空じゃなくてももったいないって思っちゃうわよねぇ…」



「ほんとほんと!」



ほっとしたのもつかの間、また一斉に向けられた視線にぱちぱちと目を瞬かせた。



「綺麗なストレートの黒髪にモデルみたいなスレンダーな身体…極めつけはその深い紫色の瞳!ほんと綺麗すぎでしょ!?」



「紫衣ってハーフじゃなくてクォーターより遠い覚醒遺伝ってやつなんでしょっ!?

羨ましい!!」



「この近くの男子高校生達が紫衣のこと《菫の精》って言ってるの聞いたわ!」



「もはや高嶺の花なのよ!男がだらしないからのんびり屋の紫衣が一人なのよ。

あたし達だって紫衣の恋バナとか聞きたいのに!」



聞いたこともないあだ名なんかに、あたしは何と答えていいのやら…どうやらみんなで褒めてくれているらしいのに何も答えられずに一人オロオロしていた。



自分の容姿を褒められるのが苦手なので…。



そんなあたしを見ながら友達が呟くように言った。



「…でも性格は謙虚で控え目ってどうなのよ。

最初は取っ付きにくいのかなぁ…なんて思ってたの馬鹿みたいだもん。」



「人見知り激しいだけなんだよね。

あたしらみんな紫衣大好きだもん!

…あたしが男の子なら間違いなく紫衣が嫁に欲しいね!」



希空のそんな声にみんなが笑い出して、あたしもそれにようやく笑みを溢した。



「あたしも、希空が男の子なら希空のとこにお嫁に行くわ。」



「…!!紫衣大好きっ!」



「希空はダメよ~!」なんて声に希空が怒って、あたしは声を押し殺しながら肩を揺すらせて笑った。



優しい友達に囲まれて、あたしの毎日は平凡で平和そのものだった。











それが



ゆっくりと動き始めた運命によって、



…変わろうと…しているなんて。












半分夢か幻だと思い込もうとしている



――――あの獣との出逢いにより、あたしの知らない運命の輪は…廻り出したのだ。









< 13 / 121 >

この作品をシェア

pagetop