【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
「ねぇ…、ねぇ…!どうしたの!?」
「……!……ぁ…いや、……なんでもねぇ。」
抱き上げられたまま、肩を揺すって…それにハッとした彼はやっとあたしに視線を向けて、なんでもないと笑った。
「……。」
「あー…その、悪い。気のせいだ。」
疑うようなじとりとしたあたしの目付きに、首の後ろを掻きながらバツが悪そうに苦笑をもらした。
「なんでもないなんて感じじゃなかったわよ…。」
はっきりしないそんな答えに不満全開であたしは呟いた。
「人狼は耳が異常にいいから、ちょっとしたことでも大袈裟に聞こえるんだ。
もう、なんともねぇから…。
…それよりこれから家に来い。」
「人狼は……―――えぇ!!?」
い…家って言った!?
「うん、それがいい。いろんなこと聞きてぇだろ?
よし!俺の家だ!」
「ちょ…ちょっと……!う…うそでしょうーー!?」
誤魔化されたような気持ちが抗えなかったのに、またしても突然の予想外な言葉と、
もう勝手に決めてしまった彼がくるりと進路を変えて走り出したのに、そっちに意識をやるのでいっぱいいっぱいになってしまった。
だけど…そんなあたし達の遥か背後で……
――――『……。』
“黒きモノ”が、じっと………こちらを見て、
――――笑んでいた。