【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
夕陽の花嫁
――――十年前
『まだ……見つからないのか?』
『…。』
屋敷の広い和室で、掛軸を背に堂々たる威厳を醸し出しながらも背筋をピンと伸ばしきっちりと正座をした父の前でかしこまって正座をしていた。
直接呼び出されたのだから何かの小言だろうと思っていたが、予想外に父は僕の心配をしているようだった。
もちろん、口に出しはしないけれど。
普段よりもどこか気遣っているような声音がそれを物語っている。
『…はい。』
一言だけ答えた。
『そうか…。』
父も一言だけを返し、僅かな沈黙の後『いずれ見つかるだろう』とだけ言って僕にさがることを許した。
拍子抜けなようでいてモヤモヤと微妙な気持ち…。
襖をそっと閉め部屋を出ると、ムッと肌にまとわりつくような熱気と一層けたたましくなった蝉の声が耳を刺した。
『…今日は、蒸し暑いな…』
額に滲んできた汗を腕で擦る。
庭に目を向けると池の鯉がパシャンと元気に跳ねた。
一族の成人である16歳を迎えてから、二年が過ぎていた。
あの父すら杞憂するわけ…
18歳になった僕は
――――未だ巡り逢えない《運命の花嫁》を探していた。