【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
カチカチ…と静かな夜に年代物の壁掛け時計が時を刻む。
亡くなった曾祖父が名のある職人に作らせた物だとか。はっきりと音を響かせる古い時計は苦手な者もいるかもしれないが…僕は物心ついた時から馴染みあるレトロな音を刻むこの時計が気に入りだった。
しばし音を楽しんでその隙間から聞こえてくる寝息にも気持ちは落ち着いてくる。
…僅かな間に陽世はすっかり寝入っていた。
以前はこの音にいちいちビクついていたくせに。
着物を捲り、丸まった彼女の乱れた髪を手櫛でといて側に置いてあった薄い浴衣に手を伸ばす。
起こさぬよう慎重に…と思ったが熟睡する彼女は軽く抱き起こしたくらいではピクリともしなかった。
フ…と笑いそれを素肌に纏わせた。
布団に運び寝かしつけ、傍らに腰を下ろして飽きることなく妻の寝顔を見続けた。
『…「よくして下さるの?」…か』
呟いた言葉と同時に壁掛け時計がボーンボーンボーン…と午前3時を告げた。