Give Me Smile―新撰組と氷姫―
(……雪さんは、あの時しか名無しさんに会っていないはず)
あの時とは、扇子を買いにお店に連れていって貰った時。
だから、あの一瞬会っただけでは、相手の職業なんてわからないはずなのに。
名無しさんは、今、明らかに雪さんの事を知っているような感じだった。
……いや、知っていると言うより、把握済みという方が正しいのかもしれない。
「お嬢さん?」
名無しさんに声を掛けられて、ハッとする。
名無しさんは、一体何者なのだろうか?
わからないし、少し怖いけれど…。
「………少しだけ、いいですか?…名無しさん」
「え、僕誘われてる?いいよ〜。あ、もしかして逢引き?」
「……ふざけないで下さい」
なんとなく、この人の事ははっきりさせておいた方がいいのかもしれない。
「えっ、もしかして今日遊べないの?」
「やだ!お姉ちゃん、一緒にいようよー!!」
「………ごめんなさい」
また少しだけ、罪悪感が募る。
(……最近、変だわ)
心なんて、とっくに捨てたはずなのに。
……変なのは、沖田さんのが移ってきたのかしら?
今のあたし、あの人<新撰組>に危険因子を及ばせないようにしているみたい。
「また来てね」
「約束だよー!!」
「はいはい。んじゃ、お嬢さん。行こうか?」
「……えぇ」
コクリと頷き、兄弟達に手を振る。
あたしと名無しさんは、目の前にいる幼い兄弟達に別れを告げ、どこか人目のつかない場所を探す事にした。