Give Me Smile―新撰組と氷姫―
もし、ただ情報がないだけで、名無しさんが不信に思っているだけなら……あたしの答えは決まっている。
(……ああ、嫌な予感が外れますように)
「……ただの一般人です。それ以上も以下でもありません」
出来るだけ淡々と答える。
だけど、名無しさんは納得がいかないようで、眉をピクリと動かした。
「…質問の仕方が悪かったかな。
君は、公家の姫でしょ?
どうして、女中なんて雑用をやっているわけ?」
「………」
(……嫌な予感が、当たった…)
公家とは、簡単に言えば朝廷に仕える貴族の事だ。
神崎家は、昔から公家にあたる一家で、その末裔だとは聞いていたけれど…。
(……面倒な事になった…)
「……あたしは神崎家とは…一切関係ありません」
「だからといって、神崎という姓は庶民が簡単に名乗れるものじゃない」
「……ですが、これが事実です。あたしは、一般人です」
「……まあ、いいや」
あたしが懸命に食い下がると、名無しさんは納得はしていない表情だけど…とりあえずは折れてくれた。
さすがに名無しさんには、あたしがタイムスリップした事は言いたくない。
(……嘘は言っていない。あたしは、この時代では一般人なのだから)
だけど…。
この時代でも神崎家は存在していたと思うと、胸が苦しくなる。
まるで、神崎家という…見えない鎖に繋がれて拘束されているみたいで。