渋谷33番

帰省

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 武藤の手から逃げ、始発まで待って電車に乗り込んだ頃には化粧も取れてひどい顔になっていた。

 早い通勤に向かうサラリーマンがちらほら見えるが、誰もが無関心な顔で疲れた顔をしている。

 窓からの景色を眺めていると、ふとポケットに携帯電話があるのに気づいた。昨日、夕食の前に武藤に買ってもらったものだった。

 和美はその電源を消すと、窓を開けてまるで汚いものかのようにそれを投げ捨てた。

 向かいの男がいぶかしそうに見てきたが、それを無視して目を閉じた。

 

 電車をいくつも乗り換えると、なつかしい景色が広がりだした。目的の駅でおりるとひとつしかない改札口を出た。

 もう財布の中にはほとんどお金がなかった。刑務所で働いた賃金など、何年働いたとしてもたいした金額になはらない。



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