渋谷33番
 なつかしいロータリーは、昔の記憶のそれより小さく感じた。

 バスに乗ろうかとも思ったが今後を考えて歩くことにした。疲れた身体が重かったが、20分も川沿いの道を歩き続けると、奥に1軒の家が見えてきた。

 和美が家出をするまで住んでいた実家だった。

 久しぶりに見ると、外壁などは汚れてしまっていたが、なつかしい空気につつまれているような感覚に安堵する。

 インターホーンを押すと、すぐにパタパタと小走りの足音が聞こえた。

「はーい」
そう言いながらドアを開けた母親は、和美の顔を見ると一瞬不思議そうな顔をし、その後表情がこわばった。

 それはまるで、恐怖のような表情だった。

「久しぶり」
そう言う和美を、まだ幽霊でも見るかのように唖然と見つめていたが、やがて、
「ちょっと待ってて。今、お父さん・・・・」
というやいなや、バタンとドアを閉めた。



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