渋谷33番
 5分もたっただろうか。ようやくドアが開くと先に父親、つづいて母親が出てきた。

「今日出てきたんか?」
少し老けた父親がつぶやくように言った。

「そうや」
本当は違うが、うなずいた。


「車に乗れ」
そう言うと、和美を見ようともせずさっさと車に乗り込む。母親も、黙って助手席に乗り込んだ。


 車をすぐにスタートさせ、そのままさっき和美が歩いてきた道を引き返す。駅を少し過ぎたところにあるチェーン展開しているうどん屋に車は停まった。

 車から降りて店に入っても、2人は何もしゃべらなかった。

 店の明るいBGMがやけに不似合いだ。

「何でも食え」
そう言うと、ふたりは揃って『あんみつ』を注文した。



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