渋谷33番
 和美は黙って、料理を食べだした。そうすることでしか、沈黙に耐えられなかったからだ。

 ふたりは、あんみつには手をつけようともせず黙って和美を見つめている。

 少しずつ自分の中にイライラがたまってきているのを和美は感じていた。

「家には帰ってこさせない」
父親が断定的に言った。

 一瞬箸が止まった和美は、ふたりを見やった。母親は目を伏せた。

「どういうこと?」

「ここに」
そう言いながら、父親は和美の目の前に封筒を置いた。
「20万円入っている。これでなんとかすればええ」

「そんな・・・。20万なんて、そんなのアパートの敷金にさえならへんやん」

「だからお前は甘いんや。自分で苦労しろ。住み込みでもなんでも、とにかくがむしゃらに働け。1年たったら連絡してこい、そこで判断する」



 




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