渋谷33番
 うれしい顔をしてしまった自分を恥じるように、雪乃は顔を伏せた。唇のあたりが細かく震えている。

 それを見ると、満足そうに植園は煙草をくゆらせた。

「今日はそれだけを報告しようと思って呼んだわけ。変に期待されても、結局困るのは自分だからね。以上よ、ごくろうさま」
植園は立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。

 吉沢は、雪乃にふたたび手錠をつけながら、
「大丈夫?」
と尋ねた。

「あ、はい・・・。すみません」
大きな瞳が濡れている。

「きつい言い方してごめんね」
自分が言ったわけでもないのに謝る。

「いいんです。刑事さんのおっしゃるとおり、どんな証拠が出てきても、私があのケースを持っていたのは変わりないですから・・・」
そう言うと、無理して笑顔をつくってみせた。

 
 それが吉沢が初めて雪乃を愛しい、と思った瞬間だった。






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