渋谷33番
 雪乃は恥ずかしそうに笑うと、ふいに姿勢を正して、
「たとえばね・・・」と上目遣いで工藤を見た。

「目の前にいるあなたが、いつかいなくなるんじゃないかって・・・、ルーフィンって小説の主人公のように消えちゃうんじゃないかって。とりとめのない不安だけど、もう少し近づきたいなって。だって、近すぎて消えちゃうわけじゃないのにね。想いの強さと、苦しい気持ちが、恋愛では同時に起こるんだと知ったの」

「ほんとにまぁ」
工藤は頭をかきながら空をあおぐと、ふたたびしきりに手を当てて、
「哲学的な君のペースが戻ってきたみたいで安心したよ。その分じゃ大丈夫だね」
と微笑んだ。

「ごめんなさい。こんなときになんて言っていいのか分からなくって」
雪乃も手を当てながら笑った。

 想いは伝わった、と確信した。









< 148 / 204 >

この作品をシェア

pagetop