渋谷33番
 部屋に戻る道すがら、職員が、
「ああいうときは、愛してるって言ってあげればいいのに」
とまるで女友達かのように茶化してきた。

「ええ、友達にもよく言われるんですけど・・・。どうしても恥ずかしさが先にたってしまうんです」
歩きながらそちらを見てはにかむ。

「でもあの男の子、毎日のようにここに来てくれてるでしょ?それって、すごく大変なことよ。たった一言、気持ちを伝えるだけじゃない。私からすればうらやましいかぎりなのにさ」
そう言うと、唇をとがらせた。

 確かに、工藤は連日のように面会に来ていた。職員間では有名な話だった。


 雪乃はふと、足を止めると職員の方へ身体ごと向き直った。
「分からないんです」

「分からないって?」
突然立ち止まった雪乃に面食らいながら、職員はいぶかしげそうに尋ねた。




< 149 / 204 >

この作品をシェア

pagetop