渋谷33番
「それは、私の指示をちゃんと2人が理解したからっしょ。特に工藤はよくやったと思う」

 とたんに工藤の目が輝きだし、
「うわー、うれしいっす!」
と興奮しだす。

「よくあの咳払いの合図に気づいたね」

「もちろんですよ!高橋さんから自分のことを『恋人だ』と言ったと聞いた時から、何かしらの指示があるな、って思ってました。それに、咳払いをした後の目を見れば、なにか重要なことを言おうとしてるな、って分かりますよ」
そう言いながらも、自信満々な顔になっている。

「私も弁護士だから呼ばれたと思ってたけど、お嬢様の顔を見た瞬間に、これは工作を依頼してるんだな、と気づきました」
高橋も雪乃の横に座り、そう言った。

「あの指示、傑作でしたね」工藤は、ええと、と目線を天井に向けながら、
「咳払いの後、たしか『待っててね、つらいけれど、仕方ないの。確かに、お願いされたのは私だけど』でしたよね。で、区切った後の頭文字を並べると、『松下』ってなる。すぐに分かりました!」

「えらいえらい」
雪乃は煙草でニコチンがまわるのか、目頭を押さえながら言った。





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