渋谷33番
「留置所の生活は大変でしたね。実のお父様も心配されてましたよ」

「今回ほど愛人の子供っていうのを感謝したことないわ。認知もされてないから警察も調べられないしね。まさかヤクザの幹部の娘ってことがバレたら、あの吉沢っていうバカな刑事も少しは怪しんだだろうしね・・・。あ、岐阜のほうは?」

 岐阜に住んでいる育ての親のことだった。彼らは雪乃が普通の大学生だと思っているだろうから、できれば心配かけたくない。

「大丈夫です。何も知りません」
高橋が、心得ているとでも言うようにうなずいた。

「高橋が優秀な弁護士で助かったわ」

「いえいえ、今時ヤクザの組にもひとりくらいは弁護士はいますから。私でなくても、きっと無罪をでっちあげられましたよ」

 雪乃は、フンと鼻を鳴らすと、
「それにしても」と、言いながら煙草をもみ消した。
「松下野々香はどうしたの?」

 工藤が、「へへ」と笑うと、
「あの『松下を拉致しろ』、の指示通り誘拐しましたよ。で、証拠のために指紋とかをたくさん紙袋につけさせました。家宅捜索用に封筒に住所を書かせた後、ちゃんと始末しときました」
と平然と言ってのけた。




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