渋谷33番
 雪乃は缶を口にあて、喉をしめらせると、
「私には友達なんかいない。必要もない。だけど恩は返す。それだけ」
と興味なさそうにつぶやいた。

「そうですか」
何故かがっかりしたように工藤は引き下がった。

「松下野々香にもかわいそうなことをしたね。松下の名前を出したのは、事故って警察に行った後から様子がおかしかったからなんだけど、彼女もきっと私が夜、封筒を取りに行くのを見てたんだろうな。私の名前を出さなければ運命も変わってただろうに、バカな女」
 そう言いながらも、雪乃は悲しそうな顔をした。

「アネキ、これからどうするんですか?」

「これから?そうだな・・・まあ、もう大学ではさすがに売れないし。また別のルートを探すよ。でも、先に少しのんびりしたい。さすがに疲れた。留置所が、ってことじゃなく、違う自分を演じるのにね」

 工藤は黙っていた。

 しばらくの沈黙の後、雪乃は右手を差し出すと、
「ライター貸して」
と言った。

 

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