渋谷33番
 サキを送ると言う武藤と別れ、ひとり事務所に戻った。

 まだ1階には人がいたが、今日泊まっていいと言われた2階には誰もおらず、ソファには毛布と枕が無造作に置かれていた。

___これでいいのか?

 そういう考えが頭に浮かんだが、アルコールのせいでうまくまとまらない。

 電気を消すと、刑務所での夜を思い出した。

 長い服役からこうしてシャバに出られたことはうれしいはずなのに、幾度も思い描いていたはずなのに、なぜだか喜べない自分がいる。

___こっちの世界

 あの雇われママは言っていた。

 やはりここは裏世界なのだろうか?ここにいて、本当にやり直せるのだろうか?

 そんなことを思いながら、和美はいつしか眠りについていた。






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