流れ星を探して
いつの間にか、あたりは夕陽の色に染まり、ピーターの顔も朱(あか)く照らされている。

ピーターは、促すようにもう一度手を差し出し、少し首をかしげて見せた。

蘭はためらいながらも、ゆっくりとその手に、自分の右手を重ねた。

ピーターは、その手を優しく握りしめ、蘭を立ち上がらせた。

そのまま少し屈み込むと、スカートについた土ぼこりを払った。

蘭はどうしていいのかわからず、されるがままに突っ立っている。

蘭はまだ、彼氏がいない。

今時、奥手すぎると自分でも思うのだが、この性格だし仕方がないと、半ば諦めていた。

だから、こんなふうに優しくされたことも、こんなに近くに男性がいることも、初めての経験だった。

「はい」

と、ピーターが蘭に、鞄を渡した。

「ありがとう……」

ピーターの顔を見ることもできず、うつむいたまま礼を言う。

まだ、胸苦しさは消えない。

蘭は早くこの場から立ち去りたかった。

1秒でも早く、ピーターの前から消えたかった。

「あの、本当にありがとう!」

蘭はそう言いながら頭を下げると、足早に歩きだした。

ピーターは面食らったように、呼び止めた。

「蘭!」

蘭はピタッと止まって振り返ると、

「それから……」

「え?」

「突き飛ばして、ごめんなさい!」

蘭はもう一度頭を下げて、そのままピーターを見ることもなく、走り出した。

ピーターは、呆気にとられたように、蘭の後ろ姿を見送った。




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