流れ星を探して
蘭は湯がたっぷり入った浴槽に、身を沈めた。

自然と大きな息を吐く。

気持ちいい。

今日は死ぬほど走って、たっぷりと汗をかいた。

疲れた身体と混乱した心が、ゆっくりと癒される気がする。

本当に……。

本当にどうしたんだろう、私。

あの、心臓をわしづかみにされたような痛みと苦しさ。

口から心臓が飛び出るのではないかと錯覚するほどの、高鳴る鼓動。

蘭には何もかもが、初めての体験だった。

恋煩い。

佐雪の言葉を思い出す。

恋って言ったって、会ったばかりじゃない!

しかも、名前だけしか知らなくて、あとは何もわからない。

それに、日本人じゃないし!

それにしても……。

と、蘭は考え込んだ。

やけに流暢な日本語だった。

目を閉じて聞いていたら、外国人とは思わなかっただろう。

何であんなに、日本語が上手いのだろう?

ふと、蘭の頭の中に、ピーターの笑顔が鮮明に浮かぶ。

涙を拭ってくれた、細い綺麗な指。

頭を撫でる大きな手。

蘭の手を握った瞬間の、力強さ。

まるで、今、そこに触れているような感触がして、蘭は鳥肌が立った。


やだやだ、何なの!

蘭は慌てて顔を洗った。

ピーターの顔が、感触が、頭と身体から離れない。

私、どうしちゃったの?

蘭はのぼせそうな頭を、抱え込んだ。



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