流れ星を探して
「行ってきま……」

あくびが出てしまりのなくなった声で、蘭が言った。

靴を履いていると、佐雪がニヤニヤしながら見送りに来る。

「眠れなかったの?」

「……」

蘭は、横目でちらっと佐雪を見た。

何を言っても冷やかされるだけだ。

「行ってきます!」

佐雪に向かって、ベーッと舌を出しながらドアを開ける。

「うわぁ、不細工っ!」

佐雪が大げさに顔をしかめた。

「そんな顔してたら、嫌われるよ」

と、佐雪はバイバイと手を振った。

「もうっ」

蘭は苦笑しながら玄関を出た。

朝の空気は、まだひんやりと冷たい。

もうそろそろ、梅雨に入るのだろうか。

蘭は雨が嫌いではない。

しとしとと街や緑を濡らす風景、降り始めのアスファルトの匂いがなんとなく好きになったのは、いつからだろう。

あの匂いがすると夏がもうすぐ来るんだと、懐かしい気分になる。

しばらく歩くと、海岸通りに出る。

蘭は防波堤に飛び乗った。

今日も素晴らしい“なぎ”だ。

静かな水面は朝日を受けて、キラキラと輝いている。

蘭は防波堤の上を、ゆっくりと歩いた。



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