流れ星を探して
「ただいま」

蘭は玄関のドアを開けると、ボソッと呟いた。

靴を脱いで廊下を抜けると、リビングに入る。

対面式のキッチンでは、母親の佐雪が夕食の支度をしていた。

「ただいま」

蘭はもう一度、小さな声で言った。

「あら」

佐雪は少し驚いてみせた。

「おかえり。今日は早いのね」

「うん」

蘭はうなずくと、リビングを出ようとした。

その背中を追って、佐雪が声をかけた。

「蘭!」

「何?」

蘭は振り向いた。

佐雪はパタパタとスリッパの音を立てながら、近づいてきた。

「牛乳、買って来てくれない?明日の朝のがないのよ」

と、佐雪はテーブルの上に置いてあった財布に、手を伸ばした。

「あぁ、いいよ。それくらい出しとく」

佐雪はそう言いながら、玄関に向かおうとして

「アッ!」

と叫んだ。

叫び声に驚いた佐雪が、顔を覗かせる。

「どうしたの?」

「鞄、忘れた……」

「えぇ!?どこに?」

「防波堤……」

蘭の言葉に、佐雪は顔をしかめた。

「また、ぼんやりしてたんでしょ!」

と、大げさにため息をつく。

「財布、鞄の中なの?」

「うん。取って来る」

と、蘭は靴を履きながら答えた。

「車、出そうか?」

「いい!走ったほうが早い」

蘭はそう言って、外に飛び出した。

背後から、佐雪の声が追って来る。

「なかったら、交番に行くのよ!」

「わかってる!」

蘭はそう答えて、走り出した。



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