彼は幕末戦士



「ひゃぁっ!!」


いきなり脱がれるものだから、私はあわてて両手で顔を覆う。
……けれど、やっぱり気になってしまうものだ。
ちゃっかり、指の隙間から様子を見ていた私である。


男は懐から小刀をとりだしてそれを腹に――――――――切腹!?


「いけませぇぇぇぇぇんッ!!」


腹寸前のところで止めることができた。
こんなところで切腹されても困ってしまう。
私は男の腕をつかみ、なんとか小刀を鞘に収めさせることができた。


「なにするんだよ」


何故止めたのか、と言わんばかりの目で睨まれたが、そんなことはしらない。


「それはこっちの台詞よ!いきなりそんなことされても困るわ」


「そ、それは……ごめん。けど、無断で入っちゃったし、責任を……」


「私、気にしてませんよ」


しれっと言った私に男は驚いたような顔をした。


「え?」


実際、部屋に入られたことはあまり気にしていない。入られたというか、いきなり出てきたのだから。
気になるのは他にある。


「あなたは、いったい誰なの?」


そう、この男のことだ。
いきなりクローゼットから出てきて、軍服というおかしな出で立ち。さらには刀を差していて、とても普通とは思えない。



「僕?僕は、河上千尋(かわかみちひろ)。旧幕府軍として、戦っているんだ。君は……蝦夷の人かい?」





蝦夷?旧幕府軍?戦い?
なにを、言っているんだろう。この言葉から浮かんでくるのは――――――――


――――――――――戊辰戦争。

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