今、この場所で。
タバコに火をつけた恭平は空に向かって煙を吐き急に語りだした。


「なぁ、恋愛って単純なことだと思うんだよなぁ。例えば目の前にカップルで座る椅子があるとするだろ?」


真剣な顔で俺を見る。
何をこいつは言ってるんだ……。
けど、その真剣な瞳を俺は直視できない。


「なぁヒロ。お前は誰と座る?」


沈黙の中でアキのピアノの音色だけが聞こえてくる。「何が言いたいわけ?」
俺はやっと恭平の目を見た。


ニヤっと笑った恭平は
「つまり、恋愛は理屈じゃないってこと。」


タバコの火を消した恭平は笑いながら俺の前から去って行った。


今はまだ恭平の言ってることに理解していなかった俺はいつまでも音楽室を見つめていた。






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