その時まで、三秒。
その時まで、三秒。
 アイツとあたしが付き合いだしたのは、ただの気紛れだ。それ自体に意味なんてない。それはアイツも重々承知している。

「早く来いよ」

「うん、いま行くから」

 それなのに。気紛れに付き合いだしたはずなのに。――付き合わないって言葉に、「まぁ、いいけど」と気だるけに即答したのに。

 あたしはどんどん惹かれていく。元々趣味も同じだし、小学校からの付き合いだった。幼馴染みだし、イケメンだし。なにをしてもそつなくこなす。そう、非の打ち所がない奴なのだ。

「なにしてんだよ、さっさと来い」

「……ちょ、痛い」

 掴まれた腕が軋む。痛みで顔を歪ませれば、そっと手が離れた。

「ブスだな」

「っは!? 意味解んない」

 いきなりなにを言い出すのかと目を丸くさせれば、顔が近づいてきた。

「――うえぇっ!?」

「うるせぇな」

「な、なにっ、うえっ、おええっ!?」

「うるせぇ。おええってなんだよお前。吐きたいのか?」

 違うし! 驚いてるんだよ。でも口からは出てくれなかった。キスをしてきたということに、まだ頭が追いつかないのだ。

「――十年だ」

「……な、にが?」

 漸《ようや》く紡がれた言葉に、小さく溜め息を漏らした。
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