君しか愛せない
「ただいま」
今日は1日大井の手伝いや明日から始まる授業の準備をしているうちに終わってしまった。
本当はもっと早く帰って来れる筈だったのに、大井の長い雑談の所為でだいぶ遅くなったな。
全く、大井といい時任といい、変わった輩が多くて先が思いやられる。
玄関で革靴を脱ぎながら1日を振り返っていると、パタパタというスリッパの音とともに2階から小春が降りてきた。
「葵兄おかえり。ねぇ、転勤先がうちの学校だって、なんで黙ってたの?」
風呂上がりなのか、ショートパンツにキャミソールという露出した格好の小春。
濡れた髪から滴る雫がほんのり赤く染まった肌の上を滑り落ちる。
(・・・頼むからそんな格好でウロウロするなよ・・・)
そんな小春の姿を直視出来る筈もなく、靴を脱ぐのを理由にその体から視線を逸らした。
「別に大した理由じゃねぇよ」
「えー、そうなの?てっきりあたしをびっくりさせて、喜ばせようとしたのかと思ったのに」
「うわッ、いきなり何すんだ!?」
突然小春が背後に近寄ってきたと思ったら、背中に覆い被さるようにしてのしかかってきた。
「だって葵兄が教えてくれないから。早く本当の事言わないと……このまま首絞めちゃうよ?」
そう言うと細い腕を俺の首に回し、首を絞める真似をした。
下着を着けていないのか、柔らかな胸の感触がワイシャツ越しにダイレクトに伝わってくる。
そしてその存在をアピールするかのように押しつけて・・・いや、小春はただじゃれているだけだ。
しかしやられている方はたまったもんじゃない。
「───小春ッ・・・!」
「なぁに?」
このまま抱き締めて、この腕の中に閉じ込めてどうにかしてしまいたいなんて・・・俺がそんなふしだらな事を考えているだなんてお前は知らないんだろうな。