君しか愛せない
「葵くん、暇?」
昼休み。
職員室で午後一の授業の準備を整えていると、村井が弁当を片手にやってきた。
相変わらず露出度の高い派手な赤い服。
Vネックの胸元にはくっきりと谷間が見え、ぴったりとした服は村井の女らしい曲線を強調している。
これでは10代の健全な少年達も目のやり場に困るというもの。
「もう少しで終わるけど」
村井は美人だしスタイルも抜群だと思う。
しかし彼女を見ていても何とも思わないのは、俺が小春を溺愛しすぎているからだろうか。
事実、目の前でその豊満なバストを揺らされても俺の体は何の反応も示さない。
「葵くん、お昼まだでしょ?一緒にどうかと思って」
そう言って自分の目の前に弁当箱を掲げて見せる村井。
ちらりと周りを伺うと、職員室にいる殆どが食べ終わっている様子。
流石にその中で1人弁当を突くのも淋しい。
「屋上へ行かない?天気もいいし、気持ちいいと思うわよ」
「そうだな。気分転換にもなるか」
俺も弁当を片手に村井の後に続いて屋上を目指した。
「お、結構いいじゃん」
立ち入り禁止と書かれた屋上へと続く扉は難なく開き、足を踏み入れるとそこからは校庭と周辺の景色を一望できて、予想以上に気持ちが良い。
「でしょう?あたしもご飯食べよっと」
元々立ち入り禁止のそこにはベンチなどという物は無くて、2人で地べたに直に座り弁当を広げる。
ここなら静かだし、誰にも邪魔されずにのんびり出来そうだ。
これから昼飯はここで食べよう。
一緒に飯を食べているからと言って村井とは特に何を話す訳でもなく、ぼんやりと校庭を眺めていた。
すると暫くして鞄の中身を漁っていた村井が、煙草とライターを取り出しそれに火をつけた。
「煙草、吸うのか?」
「そうよ。意外?」
「……いや、意外ではないな。」
少し考えて苦笑すると「失礼ね」と言って村井も笑った。
校内で煙草など、不良教師もいいところだがここなら何をしていても誰にも見つからない。
ならば自分も持ってくればよかったと心の中で舌打ちしていると、そんな俺の心境を察したのだろうか。
「一本いかが?」
「遠慮なく」
差し出されたケースの中から一本抜き取り口に咥え、それに火をつけた。
煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出すと心なしか気分が落ち着く。
手摺りにもたれながらふと校庭を見ると小春の姿を見つけた。
自分で言うのもなんだが視力2.0は伊達じゃない。
もっとも、小春を見つける事に関してはさらに効果を発揮するのだが。
小春だけを捉えていた視線を他へ移すと、数人の友人達とバレーをしつ遊んでいるようだ。
ボールが人のいない所へ飛んで行くのを見ると、どうやらあの中に経験者はいないらしい。
それを落とさないように追い掛ける小春の短いスカートは、見ているこっちがハラハラするくらいにひらひらと揺れる。
近くにいる数人の男子生徒がチラチラと覗き見ているのにも気が付かないで動き回る小春に駆け寄って、その裾を押さえてやりたい。
そうは言っても、友人達と仲良く遊んでいる姿を見るのは微笑ましいものだ。
「笑ってる方がイイ男よ」
いつの間にか同じように手摺りに寄りかかっていた村井が、俺の顔を覗き込んで言った。
「余計なお世話だよ」
ハッとしてポーカーフェイスを取り繕い素っ気なく答えるが、どんなに平静を装おうとしても可愛い小春を見ているとどうしても頬が緩んでしまう。
「ニヤニヤしちゃって。……生徒は駄目よ?」
ただの生徒だったらどんなによかったことか。
それどころか、もっと厄介な存在なのだから。
「わかってるよ」
小春が妹だって事くらい……。