君しか愛せない
第5話 招かれざる客
今日は土曜日。
「ただいまぁ!」
友達と遊びに出掛けていた小春が勢いよくドアを開けながら帰ってきた。
「おかえり」
小春はリビングに入るや否や、ソファでくつろいでいた俺と凌の間に割り込んで座った。
「小春ご機嫌だね。何か良い事でもあったの?」
優しく頭を撫でながら問う凌に、まるで猫の様に擦り寄るから少しばかり嫉妬してしまう。
「あのね、あたし……彼氏ができましたッ」
照れながら「キャーッ」とクッションに顔を埋める小春の言葉に俺は驚きを隠せなかった。
ふと隣を見るとやはり凌も予想しなかった台詞が返ってきた所為で、大概の事では表情を崩さないのに今回ばかりは目を見開き、小春の頭に手を乗せたまま固まっている。
凌も俺と同じく、小春の事を過剰な程に溺愛しているから……。
「そうなの?相手は誰?」
しかしすぐに冷静さを取り戻した凌が笑顔で問い掛ける。
最も、その目は笑っていないのだが浮かれている小春がそんな事に気付くはずもない。
「同じクラスでね、和樹くんって言うんだけどすごく格好よくて女の子達の間に大人気なの!その和樹くんが入学した時にあたしに一目惚れだったんだって」
口元を綻ばせながら嬉しそうに話す小春。
まだまだ子供だと思っていたのに、俺が知らない所でどんどん大人に……女になっていってしまう。
「で、でもさ、小春はそいつの事好きなわけ……?」
何でもない風を装っているが、内心恐る恐る尋ねてみると小春は少し俯いた。
「……本当はまだよくわからないんだけど……ちゃんとした返事は後でもいいから試しに付き合ってみない?って言われたの。でも……何とも思ってなかったら付き合えないし、たぶん好き……なんだと思う」
小春の口から出た「好き」という単語が胸に突き刺さる。
「そ……っか」
何も言えない。
だって俺は小春の兄貴だから。
誰よりも小春の事を思っているのに……この想いは伝えられない。