君しか愛せない
小春と木下が付き合い初めてから1週間程が経った。
学校での小春は木下と2人で過ごす時間が増えた様に感じる。
家に帰ってきても木下の話ばかりでいい加減うんざりだ。
他の男の隣で楽しそうにしている小春など、見たくはないのに……。
「……にぃ……葵兄ッ」
「……あ、悪ィ。何?」
そんな事ばかり考えていたら、今が朝食の真っ最中だということをすっかり忘れてしまっていたらしい。
「も──ッ、話聞いてなかったでしょ!?」
「おう。聞いてなかった」
小春は頬を膨らませてもう一度説明しようとしていたが、目の前で不機嫌の代名詞の様な顔をした凌がそれを遮った。
「小春が今日、彼氏を家に連れてくるんだって」
吐き捨てるように言うと凌は、食べ終わった食器もそのままに仕事へと出掛けてしまった。
「何よ……あたしが彼氏をつれて来ちゃいけないっていうの……?」
大抵の事では滅多に怒らない凌に冷たくされた小春は、まるで叱られた子犬の様に首を垂れながらその背中を見送っている。
俺だって……学校だけでなく家でまで2人の仲を見せ付けられたくないというのが本音だが、それ以上に小春の悲しそうな顔は見たくなかった。
「……大丈夫。凌は低血圧だから機嫌悪いだけだって」
ぽんぽんと優しく頭を撫でてやると、小春はうっすらと涙の滲んだ瞳をこちらに向けて小さく頷いた。
(抱きしめてぇな……)
不謹慎だとはわかっているが、きつく抱き締めたら折れてしまうのではないかと思う程華奢な体に伸ばしかけた手を、それ以上近付ける事ができなかった。
小春を抱き締める腕を俺は持ち合わせていない。
彼氏である木下だけが小春を抱き締め、キスをする権利があるのだ。
俺では……ない。
そんな事を思うだけで頭がおかしくなりそうだ。
いや、妹に家族以上の感情を持ってしまっている時点でとくにおかしいのだろう。
「葵兄……?」
ふと視線を感じて顔をあげると、小春が不安そうな表情で俺を見つめていた。
「なんでもない。ほら、学校行くぞ」
「……うん」
いつまで2人の仲を見守っていてやれるのか……。
あまり自信はない。