君しか愛せない
「もーッ。早く起きないと遅刻しちゃうよ!?」
「……うん。あと5分……」
「葵兄ってばそんな事言って!いつもなかなか起きて来ないでしょ!?」
頭まで被った布団の隙間から小春を伺うと、腕を組み頬を膨らませて俺の顔を覗き込むように見下ろしていた。
「───ッ!」
そのあまりの近さに驚いて、再び俺は頭を布団の奥深くに潜り込ませた。
今日から俺の母校である高校に通う事になった小春は既に制服に着替え済みで、あとはブラウスにリボンを取り付けるだけ。
第二ボタンまで外されたブラウスの胸元からは小春の豊かな胸が見え隠れしている。
(ったく……男の朝勃ちを煽ってんじゃねぇっつうの。起きらんねぇだろうが……)
朝から元気過ぎる自身に叱咤しながら、布団の中から返事をした。
「本当に、あと5分したら起きるから……先に朝飯食ってろよ」
「絶対だよ!?じゃあ、あたし凌兄起こしてくるね」
忙しそうにパタパタと廊下を走っていく小春の後ろ姿を見送ると、俺はのそのそと布団から這い出した。
『凌(しのぐ)』は俺の双子の兄貴。
性格は俺とは正反対で、几帳面かつ真面目で優しく、おまけにルックスもいい。
双子だから見た目こそ大差ないものの、俺は凌程社交的でもなければ友人と呼べる人間も多くはない。
学生の頃は不良街道まっしぐらで親の手を煩わせることもしばしばで、学校では教師からよく凌を引き合いに出しては比べられていた。
性格面ではかなりの差があり、そんな凌に多少なりのコンプレックスを抱いていたのは否めない。
小春は俺達よりも9つ年下で、今日から高校生。
小春への気持ちに気が付いたのは23歳位の頃。
常識的に考えて兄妹なんてありえないのに、自分はなんて異常なんだと頭を悩ませた時期もあった。
妹が好きだなんて気のせいだと思い込む為に他の女と付き合ってみたりもしたが、小春への気持ちを抑えようとすればする程に俺の中の彼女の存在はどんどん大きくなっていった。
小春しか女に見えない。
おかしな事だとわかっていたがどうしようもなくて。
ならば想っているだけでもいいじゃないか。
“家族”という立場だが、誰よりも小春を近くで見ていられるのは自分なのだから。
最近ではそう思い始めていた。
小春への気持ちに気が付いてから早数年。
中学とは違う小春の制服姿に、図らずとも欲情してしまった。
少し長めの髪をかきあげ、テーブルの端に置いてあるタバコに手を伸ばす。
火をつけ、煙を深く吸い込むと、溜め息と共に吐き出した。
「朝っぱらから……俺は変態かよ」
吸いかけの煙草を灰皿に押し付け、クローゼットの中からクリーニングしたてのスーツを取り出した。