君しか愛せない
「和樹君に誘われた!?」
「ちょ・・・声が大きいよ!誘われたって言うか、2人で話がしたいって言われただけだし・・・」
放課後。
帰り支度をしながら瑛子に今朝の出来事を話していると、ここが教室であることもお構いなしに大声で驚きを表現してくれた瑛子の口を慌てて手で塞ぐ。
「へー。ふーん。そうなんだぁ」
「な、なによ」
「なんの話しとるん?」
意味深な視線を投げかける瑛子にたじろいでいると、あたし達のやり取りを少し離れたところから見ていたらしい壱夜がこちらへ近づいてきた。
「別になんでも・・・」
「小春が今から和樹君とデートなんだって」
わざわざ壱夜にまで言う必要ない、と思っていたのに「なんでもない」と言おうとした台詞は瑛子によってかき消されてしまう。
「なんやって!?デート!?」
「あーもー!デートじゃなくて、ちょっと話するだけだって!」
壱夜はあたしの男関係についてやけに口出しをしてくるところがある。
中学生の頃も「違うクラスの男子に告白された」と言ったら、あたしの気持ちなんて無視で静止の言葉も聞かずに断りに行ったり、兎に角、いちいち口を出してくるのはやめてもらいたい。
「ま、キスくらいは覚悟しとくのね」
心なしか瑛子の顔がものすごく楽しそうに見えるのは気の所為ではないかもしれない。
「キ、キス!?付き合ったばっかやのに、キスなんてまだ早いやろ!!」
「早いかどうかは当人同士が決めることでしょ」
和樹君から告白されてまだ1週間。
壱夜の言う通り、お互いのこともまだよく知らないし早い気がしないこともない。
それに、お互いにすごく好きだって言うならいいかもしれないけど、お試しで付き合っているだけで、あたしの方はまだ本当に好きかどうかもわからないのに。
それにしても・・・。
「壱夜、お父さんみたい」
「うるさい!俺はお前をそんなふしだらな女に育てた覚えはあらへんぞ!」
「育てられた覚えもないけどねー」
というか、キスの1つや2つくらいでふしだらはないんじゃないの?
「付き合った期間が長い短いじゃないんだって。あたしなんて今の彼とエッチしてから付き合ったんだから」
そういう問題じゃない気がするけど・・・。
まだわからないけど、もし本当に向こうがその気だったとしてもあたしにだって心の準備があるし、それに告白の返事もきちんとしなければいけない。
「ま、とりあえず行ってみたら?できないならできないで断ればいいんだしさ」
「でけへん!絶対あかん!」
「もーッ、壱夜うるさい!あ!。もうこんな時間!待ち合わせの時間だから行ってくる!」
「小春!話はまだ終わってへんで!」
「はいはい、また今度聞くから!」
時刻はもうすぐ待ち合わせ時間の6時。
ひらひら手を振る瑛子とガミガミ煩い壱夜を教室に残し、あたしは急いで待ち合わせ場所の体育館の裏へと向かった。