君しか愛せない
「はぁ・・・」
本日何度目かのため息を吐き、職員室へと続く廊下を重い足取りで歩く。
なんでそんなにため息ばかりかというと、アレしかない。
そう、小春に彼氏ができたこと。
今日も一緒にいるのかとか、何をしているのかとか、そんなことばかり考えてしまう自分が情けない。
兄貴なのだから、妹に彼氏が出来たことはむしろ喜んでやるべきだというのに。
自分がこんなに嫉妬深い正確だったとはこれっぽっちも思わなかった。
「あーーーッ、ちくしょう!」
くしゃくしゃと頭を掻き、何気なく窓の外を覗いた時だった。
「何してんだか・・・高校生がこんなとこでサカリやがって」
部活をしていた生徒も下校してしまった体育館の裏で偶然、愛を育み合う高校生カップルを見つけてしまった。
見てはいけないと思いつつも、気になってしまうのが人間の性というもの。
ここは2階だから情事に夢中の彼らは人が見ていても全く気づく気配はない。
視力2.0の目では一枚ずつ剥ぎ取られる服や、徐々に顕になっていく女子高生の白く柔らかそうな肌まではっきりと見えてしまう。
なんとなく、背格好が小春に似ているなと思いつつ、似ていればみんな小春に見えてしまう自分に軽く叱咤した。
それに、小春だと思うと自然に体も反応してしまうから困ったものだ。
ここは学校だっつーの。
いい年した大人が覗きなんかして何をしているんだか・・・と思い、その場を離れようとすると、女子高生の顔が一瞬だけ見えた。
間違いない。
俺が見間違えるはずがない。
「小春・・・?」
そう確信した瞬間、俺は窓にかじりついた。
さっきまでそれほど興味もなく眺めているだけで気がつかなかったが、よく見れば様子がおかしい。
そう思うのと同時に俺は駆け出していた。
「ちっくしょ・・・ッ、なんでここ2階なんだよ!?」
どうしようもない事に文句を言いながら、階段を一段飛ばしにする間も惜しくて一番上から飛び降りた。
着地こそ上手くいったものの、さすがに足がじんじんとしびれたがそんな事を気にしている場合ではない。
僅かに痛む足を叩き、途中、まだ校内に残っていた生徒にぶつかりながらも体育館裏へと急いだ。