君しか愛せない
家に帰り、あからさまに元気がないことを母に心配されていたが、具合が悪いということにして先程の一件については家族の知るところとはならなかった。
俺も口止めされていたし、もちろん小春が知られたくないと言うのなら言うつもりはない。
部屋に戻った俺は自分の不甲斐なさに自己嫌悪していると不意にドアがノックされた。
小春か?と思いドアを開けるとそこにいたのは意外にも凌だった。
「入るよ」
例によって不機嫌の代名詞の様な顔をした凌は俺の返事も待たずにズカズカ入ってくるとベッドに腰を下ろし、足を組んで俺を睨みつけた。
期限の悪さが手に取るように解る。
「小春、何があった?」
いきなり確信を突かれて、危うく心臓が口から飛び出そうになるのを寸での所で飲み込んだ。
「具合が悪いって言ってたろ。なんで、何かあったと思うんだ?」
精一杯平静を装って答えてみても、やはり凌は騙せない。
「なんでもなにもないだろ。小春の様子がおかしい事くらいすぐ解る。どれだけ毎日小春の事を見てると思ってるんだ」
ああ、そうだ。
凌も俺と同じで小春を溺愛しているのだから、言わなくても解ってしまうのだ。
凌の言う通り、俺が逆の立場でも解ったことだろう。
一つ、小さくため息を吐いた俺は観念して一部始終を話した。
「―――そんな事があったのか・・・。あいつの兄貴が俺達の2個下でさ。あんまりいい噂聞かなかったからちょっと調べてみたんだ。そしたら弟の方もとんでもない奴だったよ。何人も泣かされた子がいるってね。だから小春に忠告しようと思ってたんだけど・・・遅かったみたいだね」
そんな事は全く知らなかった。
もう少しその情報を早く手にしていたらこんな悲劇、未然に防げたのに・・・そう思うとやりきれない思いで一杯だった。
「葵さ、なんで俺が小春に手を出さないと思う?」
突然何を言い出すのだろう。
突拍子もなさ過ぎて凌の言っている意味が理解できない。
“手を出さない”?
そんなの、兄妹なのだから当たり前の事だろう。
だが、俺にはその“当たり前”が当てはまらない。
小春の事が、一人の女性として好きだから。
という事は・・・?
「お前が守れないなら、俺がもらうよ」
予感的中。
双子は好みが似るとよく言われる。
薄々感づいてはいたが小春に対しての過剰なまでの愛し方は俺と同じ。
張り詰めた空気に喉を鳴らすと、初めに沈黙を破ったのは凌だった。
「なんちゃって。笑っちゃうよなぁ・・・2人して叶わない恋して・・・女なんか星の数ほどいるのに」
凌の顔が切なく歪む。
小春だけが女じゃないのに、どうして小春でなくては駄目なんだろう。
答えの出ない疑問に2人して頭を抱える。
これも双子の定めなのだろうか。