君しか愛せない
「なんかさぁ・・・鳥のヒナ、みたいだったよね」
思わず口に出てしまった言葉に瑛子と壱夜は大笑いだった。
「ぶはッ。何だヒナって!」
「じゃあさ、大井のあだ名は『ヒナ』で決まりだね!」
いい年した大人、しかもお世辞にも可愛いとは言い難いのにヒナなんて、なんて可愛いあだ名だろう。
そんな他愛もない話をしているうちに、教室のドアが開き大井先生が入ってきた。
噂をすればなんとやら、だ。
本人を目の前に3人で顔を見合わせ、笑いの余韻が冷めないまま口元を押さえながら席に着いた。
先程のあだ名が余程後を引いているのか、瑛子は未だに必至で笑いを堪えている。
(瑛子ってば……)
という自分もまた、大井先生の頭を直視できないでいるのだけど。
大井先生の頭から気を逸らせる為に副担任は誰だろうと思い、入口へと視線を向けた時だった。
「えッ!?」
大井先生に続いて入ってきた人物を目にしてあたしは思わず声を上げてしまった。
だって・・・!
(葵兄!?)
咄嗟に出てしまった声に何人かのクラスメイト達が振り返ったので慌てて両手で口を塞ぐ。
もう一度確認してみてもやっぱり見間違いなんかじゃない。
大井先生に続いて入ってきたのは今朝校門の前で別れた筈の葵兄だった。
(なんで!?どうして!?)
あたしの疑問なんてお構い無しに大井先生と葵兄は淡々と自己紹介を始める。
自分の趣味から家族構成まで事細かに紹介をした大井先生とは裏腹に名前だけ、という簡単な自己紹介をした葵兄は教室の一番後ろに用意してあった椅子に座ってしまった為、様子が伺えない。
ふと周りを見ると、教室中の女の子達が時折振り返っては葵兄を盗み見ている事に気が付いた。
妹のあたしが言うとブラコンみたいだけど、葵兄はそこら辺のモデルなんかより余程格好いい。
ルックスは勿論だし、一つ一つの仕草やバイクに乗って颯爽と走っていく姿。
普段はクールに振る舞っている癖に時々見せる照れた顔や笑顔なんか見せられた日には、妹のあたしでもドキドキしてしまうくらい。
兄妹でもそうなんだから、他の女の人だったらスマイル1つでノックアウトなんじゃないかと思う。