KYOSUKE
「百合香の部屋に用がある。茶は響輔に持ってこさせろ」
会長はネクタイを緩めながら、長い脚を一歩踏み出した。
「キョウスケですかい?どうしてまた…」
と、タクさんが彼の後を追う。
「マサが不在だろ?それに俺は響輔が気に入ったんだ」
会長はちょっと振り返ると、俺の方を見てにやりと笑った。
何でも見透かしているような、深いまなざしに俺は思わず目を逸らした。
「叔父貴、キョウスケはおもちゃじゃないんだから。あんまりアイツをビビらせんじゃないぞ」
お嬢が会長にくっついてちょっと彼を睨みあげる。
「俺がいつあいつをビビらせたんだ?」
「叔父貴は存在自体がビビる要素なんだよ」
「何だと……」
なんてまるで兄弟げんかのように、言い合っている。
でも二人ともすごく楽しそうだ。
俺は二人の横顔を交互に見やった。
あんまり―――似てないな…
叔父と姪だからか?それとも男女の差??
だけど
会長はふっと足を止めた。
「どうされたんですかい?」とタクさんが不思議そうに首を傾ける。
会長はビクっと肩を揺らし、勢い良く背中を壁に張り付かせた。
その顔は真っ青で、今にも倒れそうだった。
会長は足元に視線を移し、見覚えのある黒い物体を凝視していた。