KYOSUKE
二段に乗ったホットケーキにハチミツを垂らして、戒さんはご機嫌。
「はぁ。弓枝姐さん(ユミエネエサン←俺の母さんね)は、ほっんま優しいなぁ。うちのおかんと取替えっこしてもらいたいわ」
そうかぁ?
俺は自分の母親だから何とも思わないけど、鈴音姐さんの方が美人で迫力あっていいと思うけど。
そんなことを考えてると
「ただいま~」と鞠菜の声が聞こえた。
戒さんのいっこ下の鞠菜はこのとき小学6年生。赤いランドセルを背負って帰ってくると、俺達を見て目を輝かせた。
「戒くん!来てたん!」
鞠菜は戒さんのことがお気に入りだった。
それが彼女の恋だということに気づくのはもっと後。
恋―――
と言えば、戒さんの恋愛模様も謎だ。
いや、本人は聞いてもいないのにあれこれ喋ってくるんだけどね。
それでも………
「なぁ、響ちゃん」
彼はたまに俺のことを“響ちゃん”と呼ぶことがある。それはひどく機嫌がいいか、悪いか、何かを企んでいるときの呼び方だ。
いやな予感がして、俺は見ていたバイクの雑誌からそろりと目を上げる。
相変わらず俺の部屋でだべっていた戒さんは、急に静かになると真剣な顔で聞いてきた。
「響ちゃんはチューうまい??」
ち、チュー!
飲んでいたお茶を吹きだしそうになった。