KYOSUKE


龍崎会長の突然の来訪から、月日は流れ、あっという間に夏休みも終盤に入った。


相変わらず蝉の鳴き声は煩いし、おまけに汗でさえも蒸発しそうな気温に、組のひとたちはみんな死人のようにぐったりしている。


そこまで夏に弱くない俺でも、さすがにこの気温は異常だと思う…


会長のこと…戒さんのこと……




お嬢のこと




色々ゆっくり考えたかったのに、思考がまとまらない。


そんな暑いある朝、冷たい麦茶で喉を潤わせていると、背後から


「きょ~ぉちゃん♪」


と声がかかり、ポンっと両肩に手を置かれた。


びっくりして、俺が振り向くとすぐ後ろににこにこしたお嬢が立っていた。


この暑さの中、少しも汗をかかず、涼しい笑顔を浮かべている。


まるで精巧な造りの人形のように。


って言うか、突っ込むところそこじゃないだろ。





お嬢に「響ちゃん」なんて呼ばれたの初めてだ。





戒さんや、彼のお兄さんからはたまにあるけど。


呼ばれないからくすぐったいのと、妙に新鮮なのとで俺の体は1℃ほど上がった。


ドキドキした気持ちを悟られないよう、俺はなるべく平静を装って聞いた。


「どうしたんですか?」


「ジャン♪」


お嬢は嬉しそうに、俺の前にスーパーのちらしを掲げてきた。


赤と白で印刷されたちらしには、『火曜特売!』なんてでかでかと文字が印字されている。


「これが何か……」





「付き合って♪」






お嬢の言葉に、俺は一瞬だけ声を無くした。



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