KYOSUKE
逃げ出そうとする男の後を追いかけるのは容易いことだった。
バイクのもだけど、足の速さでも俺がまさったわけだ。
渋滞している車の中から何事か、追いかけっこをしている俺たちをみんな覗き込んでいる。
俺は素早く腰を落としてしゃがみ込むと、犯人に足払いを食らわせた。
男はあっけなく地面に転がる。
俺は男の上に跨り、腕を組んだ。
「お、お前ら…何者…?」
男は今にも泣き出しそうに表情を歪めて俺を見上げてくる。
「知らん方が身のためや。さぁあのおばあさんから奪ったバッグを返してもらおか」
男は観念したのか、びくびくしながら震える手で小さなバッグを俺に差し出してきた。
俺はそれを奪うようにひったくると、男のわき腹に蹴りの一撃をお見舞いした。
男が呻いて腹を抑える。
「キョウスケっ!」
遠くでお嬢の声がして俺は振り返った。
お嬢が必死の形相でこちらに走ってくる。
「……お嬢…」
俺が呟くと、足の下の犯人は益々顔を真っ青にして、
「“お嬢”…ってことはほ…ホンモノのや…やくざ…?さん?」と震える指で俺を指差してきた。
「ヤクザに本もんも偽もんもあるかい」
俺は軽く肩をすくめて、男の胸ぐらを掴み、歩道まで歩かせた。