KYOSUKE
「その汚い手を彼女から離さんかぃ」
ぎりぎりと腕に力を入れると、男はびっくりしたように俺を見下ろしてきた。
「な、何だてめぇ」
男が怯んだように、河野さんからぱっと手を離す。
俺は自由になった河野さんの手をそっと引いて引き寄せると、彼女を背後に庇った。
「しつこい男は嫌われるで」
俺はそれだけ言うと、河野さんの肩をそっと抱いて、前を促した。
河野さんはよっぽど怖かったのか、必死に俺にしがみついてくる。
「もう大丈夫や」そう言ってちょっと笑いかけると、彼女は安心したのか、大粒の涙を零した。
「かっこつけやがって!」
男が怒鳴り声を上げて、背後から拳を振り上げてきた。
俺は振り返ると、河野さんの肩をちょっと脇道に押しやり、片手で男の拳を受け止めた。
河野さんが小さく悲鳴を上げ、口を覆う。
俺はそれを横目で見ながら、彼女を安心させるよう少しだけ笑いかけた。
力も、スピードもない。こんなんでよく喧嘩を吹っかけるな、とこっちが感心してしまう程のものだ。
「何や。威勢のいいわりには、大したことないなぁ」
俺が少しだけ嘲笑うと、男はかっと頭に血を昇らせ、もう片方の拳を振り上げた。
俺が体を沈め、その拳を避けると頭上で空を切る音が聞こえ、俺はそれを確かめると、男の腹に強烈な膝蹴りをお見舞いした。
俺の膝が男の腹にのめり込み、男が呻き声をあげて体を折った。