KYOSUKE
俺は倒れたテーブルを戻して、その間に河野さんは床に零れたお茶を雑巾で拭いている。
「「…………」」
気まずい沈黙が流れて、俺はどうするべきか正直困り果てていた。
完全に帰るタイミングを逸したのだ。
気まずい思いで、片付けが終わると、すっかり冷静になった自分の中には後悔と申し訳ない気持ちで満たされ
それでもどうすればいいのか分からず、無性にタバコが吸いたくなり、ほとんど無意識のうちにジーンズのポケットにねじ込んだタバコの箱を取り出した。
一本取り出したときに気付いた。
しまった……ここは河野さんの部屋だ…
慌ててしまおうとすると、河野さんはほんのちょっと笑みを浮かべて、これ使って?と言って、割れてない方のグラスを差し出してくれた。
どうやら灰皿代わりに勧めてくれたようだ。
「や。ええよ。我慢するし」
「もうこのグラスは使わないつもりだったし、大丈夫。それに窓も開けるし。あ、エアコンは切るけどいい?」
「え、ああ。すんまへん」
河野さんの厚意に甘えて俺はタバコを口に含んだ。
河野さんはベッドの上にある窓を開け、今度は向かい側じゃなく俺の隣に座った。
さっきあんな風に乱暴にされたってのに、河野さんは俺を怖がってる様子はない。
ただ酷く―――バツが悪そうだ。
「鷹雄くんタバコ吸う人だったんだね、知らなかった。あと、バイクも…すっごく大きいの乗ってて、最初びっくりしちゃった」
河野さんはまたも早口でまくしたて、ちょっとだけ笑った。
だけどその笑みがどことなくぎこちない。
俺はそれに気づかないふりをして、ことさら普通に喋った。
「タバコは、毎日吸わへんけど、バイクは昔っから好きやな。車も免許は持っとるけど、そんな運転しぃひんし」
タバコを吹かせながら、俺の舌もやけに動く。
自分の悪事を恥じていたが、それを押し隠すために。