KYOSUKE
俺は河野さんの手を握ったまま立ち上がった。
「鷹雄くん……?」
河野さんは、緊張した面持ちで俺の顔を見上げてくる。
そんな河野さんを安心させるため、俺はちょっと彼女に笑いかけ、照明にぶらさがった紐に手をかけた。
カチリ
小さな音がして、部屋が一瞬で暗くなる。
でもカーテンを開けた窓から僅かな月明かりが部屋を照らし出し、互いの顔を認識できないほどの暗さではない。
俺は彼女の両肩を抱くと、今度は優しく口付けをした。
河野さんの肩は一瞬びくりと震えたが、すぐに俺に応えてくれた。
俺の背中におずおずと手を回し、ぎゅっと俺のカットソーを握る。
ちょっと横にずれると、すぐにベッドの脚にぶつかった。
幸いにもまだ布団は被せてある。
俺は河野さんをベッドに引き寄せると、彼女を座らせた。俺も向かい側に座り、真正面から彼女を見つめる。
もう一度顔を近づけると、彼女がちょっと身を引いた。
俺の唇は彼女の唇に触れることなく寸でで止まった。
もう一度顔を近づけようとすると、またも河野さんが僅かに体を逸らす。
「どしたん?いやになった?」俺はちょっと笑った。できるだけ河野さんを安心させるように。
でも―――それでも良かった。
河野さんがいやだと思えば、俺はいつでもやめるつもりだった。
そんな思いを込めて、彼女の髪に触れると、彼女は慌てて首を横に振った。
「ち……違うの…。あの……あたし……その…初めてで………」
静寂に包まれた部屋に彼女の弱々しい声がはっきりと聞こえ、照明を落とした部屋で彼女の真っ赤な顔が月明かりに浮かんだ。