KYOSUKE
河野さんは俺が思うより強い女の子だった。
「ほな、また……」
服を着替えて帰ろうとして玄関に向かい、俺はちょっと振り返った。
すぐ後ろには河野さんが見送りに来てくれていた。
「引越しの日は……」
「秘密」
河野さんはいたずらっぽく笑った。
「どうして?」
「会ったら、あたし絶対未練残っちゃう。鷹雄くんにすがっちゃうかもしれない。そんなの鷹雄くんの迷惑になるだけだもん。
あたし鷹雄くんを困らせたくない。きれいな思い出のままさよならするのが一番なの」
河野さんは明るく笑った。
桜は―――短い命だけど、それでも懸命に咲き誇る。
その強さとたくましさは―――他の花にない美しいものを持っている。
大丈夫。
彼女の恋は、散ってしまったかもしれないけれど、またつぼみをつけ、温かい季節には
鮮やかな花を咲かすだろう。
「さよなら。鷹雄くん」
彼女の笑顔をしっかりと見届けて、俺も笑顔で扉を閉めた。
余談だが、この一晩アパートの駐輪場に駐車していた俺のシャドウファントムのミラーが一つ、何者かの悪戯によって破壊されていた。
「なんっ…!!なんじゃこりゃぁ!」
“太陽にほえろ”じゃないけど、俺は故、松田 優作の台詞を絶叫していた。
彼の言葉に「ヤクザは何で怖いか分かるか?ヤクザは24時間ヤクザだから怖いんだよ」なんて名言があるけど、その通り。
俺の愛しのマシンをこんな風にしやがって!!許さへんで!!
地獄の底まで追い詰めたるさかい、
覚悟しいや!