KYOSUKE
ユキト―――……?
誰だ、それは。
「やめて、雪斗。いや……」
苦しそうに…だけど声は弱々しく、彼女は体をよじらせていた。
悪夢を見ているのは間違いない。
俺は躊躇していた手をお嬢の肩に置き、彼女を揺すった。
「お嬢!大丈夫ですか!?」
思ったより大きな声が出て、それでも俺は彼女に呼びかけると、お嬢はぱっと目を開けた。
覗き込んですぐ近くにあった俺の顔を認めると、お嬢は涙の溜まった目を開いて一瞬固まった。
強張った表情で、目をいっぱいに開けている。
「……お嬢…?」
俺が声を掛けると、彼女は呪縛が溶けたように体をバネのように起こし、俺の手を思い切り振り払った。
払われた手が痛みよりも驚きを感じて、俺は上げたままの手を宙ぶらりんにさせてお嬢を見た。
「触るな!」
まるで悲鳴のような拒絶の言葉に、俺の方が唖然とした。
お嬢は涙の溜まった目を険しくさせ、俺を睨むと
「あたしに触るな」
ともう一度、低い声で言った。聞いたことのない、喉の奥から出る低い声。
彼女の黒曜石のような瞳の奥底に、言い知れない怒りと、悲しみ……
そして恐怖が渦巻いていたことに
俺は気付いた。