KYOSUKE
俺は組の人たちに滅多に口答えしない。
って言うかこれがはじめてだ。
そもそもみんな仲が良かったし、多少の喧嘩が合っても俺は「はいはい」ってな感じでいつも受け流していた。
そうすると血の気の多いここの人たちは、みんな戦意喪失するらしい。
「新種だぜ」なんて珍しがられたりもしたけど。
それ以上に、俺がマサさんの迫力ある睨みにも動じず、まっすぐにその視線を返したことにマサさんの方がびっくりしているようだ。
「まぁそうだけどよ…。キョウスケ、どうしたんだよ。おめぇらしくねえ怖い顔しちまって」
「別に、普通ですよ。これが素の俺。ただ、俺あんまり気力がないんで、怒ると結構疲れるんですよね」
なんて返すと、マサさんは微苦笑を浮かべた。
「変なヤツだぜ、まったくよ」
そう言いながも根負けしたのか、「来な」と言って、俺は彼の部屋に引っ張られていった。
マサさんは夕飯前だと言うのに、ちゃっかり台所からビールの缶を持ってきていた。
床にあぐらをかいてタバコに火をつけると、
「長くなりそうだからよ。あんまりいい話でもねぇし」と言ってビールにプルタブに手をかける。
だけどそのプルタブはカチンっと小さな金属音を立てるだけで、すぐには開かなかった。
それが、きっとマサさんにとっても忌まわしい事実がこれから語られるであろうことを物語っていた。
俺はマサさんの前で同じようにあぐらをかくと、彼の手からビールの缶を取った。
簡単にプルタブを開けて、無言で差し出すと、
「サンキュ」と苦い顔で無理やり笑った。